ご挨拶

イーストエンド国際ギター・フェスティバルも、応援してくださる皆様のお陰で、今回なんと第11回目を迎えることができました。ここに改めて皆様に心より最大の謝意を申し上げます。
 前回までのご挨拶文で、
①「海外のギターを学ぶ人間が、留学を考える際に、日本をその選択肢の一つの候補とするまでに力のある状況とする、その為に尽力する」
②「その時はじめて、今まで西洋の肥沃な音楽文化を享受するばかりだった私たちは、世界へ向けて能動的な恩返しができる」
③「その為に強固な世界観を構築した演奏家達を招聘し、日本人としてのアイデンティティに向き合う機会を提供したい」
④「それにはギターを通して、異なる世界観、音楽の価値観を体現した、複数の演奏家に短期間の内に触れるのが最善の方法である」
というようなことを述べさせていただきました。
4年前にどうなるか不安の中、始めた催しでしたが、注目を浴びるようになるにつれ、少しづつ他でも海外のハイレベルな演奏家の来日が増えてきたように感じています。心ある方の熱意のお役に少しでも立てたのなら嬉しいことです。
ある一定の効果が現れ始めたと感じましたので、私が最終的に考えていることを述べさせていただきます。
それは、
⑤「今後、世界が無視出来ない価値を、私たち西洋音楽に関わる日本人の音楽家で、創出しなくてはならない」
ということです。
例えば歴史上の偉大な演奏家や音楽家、芸術家を思い浮かべてみてください。皆、それまでに誰も体験したことの無い、新しい価値を創出して、それまでの価値観を変えてしまった人達です。そしてそれは、それまでの歴史を踏まえた上で、50年~100年先を予見させる世界観だったのです。だからこそ、それまでの世界観に取って代わるものになりえたと言えますが、西洋音楽については、まだそのような強力な価値、音楽を通してどのように世界を捉えるかという世界観を私たち日本人はグローバルに提供出来ていないと、私は思っています。今後の世界の音楽の捉え方に決定的な影響を与える強力な世界観、今後の西洋クラシック音楽のパラダイムを、その影響無しに維持することの出来ない演奏、音楽を日本人が創出してこそ、世界へ恩返しができると私は考えます。
私自身も演奏活動をしていますので、そのような事を常に念頭に置いて、臨んではいるのですが、1人よりも、もっと多くの人間で進めていった方が、より豊かなものが生まれるだろうと考えたのが、このフェスティバルを始めた1番中心的な動機です。
 今年はEEIGF秋の陣として、10月にフランスより今や誰もがその名前を知る世界のトップギタリスト、ジュディカエル・ペロワを、来年2016年2月には、私としては来日を待ちに待っていたブラジルの超天才!”セルソ・マシャド”、イタリアより奇跡的なバロックギター演奏を繰り広げる、”マルコ・メローニ”、アルゼンチンより、もはや天才などという言葉では語ることの出来ない、真の巨匠への道をひたすら邁進する”パブロ・マルケス”らの本当に素晴らしい本物の音楽家をお招きして開催いたします。其々の演奏スタイルは全く違いますが、4名のゲストとも其々全く同じく、素晴らしい音楽を聴かせてくれることでしょう。マスタークラスも大変面白く有意義なものとなる筈ですので、是非お時間のある方は受講・聴講なさってください。
 先ほど述べましたことですが、ギタリストを目指す若い方、現在活躍されているギタリストの方々、日本のギター界を作り上げてくださった方々、そして何よりも現在の日本のギター界を支えてくださっている一般のギター愛好家の方々にも、この思いを理解していただけましたら、これからの日本のギター界は益々豊かで楽しいものになっていくと思います。
その為に、先ずは皆さんでこのフェスティバルを存分にお楽しみください。
 今後とも何卒よろしくお願いいたします。
 樋浦靖晃

2011年 ごあいさつ

イーストエンド国際ギターフェスティバルを開催するにあたりまして
このご挨拶では、皆様から一番よく受けましたご質問、」『何故このような催しをされるのですか?』へのお答えを述べたいと思います。
先ず、一言で申せば、日本のギター界を名実ともに世界水準へ引き上げる、その原動力の一つとなる役割を果たす為ということです。ここで言う世界水準とはギター音楽の勉強を志す海外の人々がその留学先の候補として、ヨーロッパ、アメリカ大陸に加えて日本もその視野に含めるレベルのことです。それが実現した時に今まで肥沃な西洋音楽文化を
享受するばかりだった私たちは、始めて能動的な恩返しを世界に向けて果たせることになるのだと思います。
「そんな無茶な」とお思いになるでしょうか?私は決して不可能な事だとは思いません。現在10代、20代の若いギタリスト達が壮年期を迎える頃には必ずそのような状況が実現すると確信していますし、また実現させなくてはなりません。
その為には先ず最初に、現在の私たちのワールドスケールの視点から見た立ち位置を正確に知る必要が有ります。その判断への足がかりを得る為に私が今のギター界に必要と思われるギタリストを招聘していきます。。彼等は非常に強固な自らの世界観を構築しています。その世界観の凝縮された演奏会を連続して聴くことによって私たちは音楽について、また文化に能動的に関わって行くということについて考えざるを得なくなるでしょう。
これは音楽によって、しかも息つく暇もなく連続でなされるので、聴いた人々の無意識の部分により強い影響を与えるだろうと私は思います。
これをきっかけに私たちは自らの世界観を振り返り、それがどの程度のものなのか考えることに否応無く向き合うことになるでしょう。それは私たちに日本人であることのアイデンティティと改めて向き合わせるということでもあります。そして、それが世界の中での日本人としての役割を考えることに繋がっていくのだと思います。そこから私たちは物真似でない真の日本人らしさ、日本人でなくては表せない芸術性への開眼への流れを作り出して行くだろう、というのが私の大きな希望です。
その為に強固な西洋のパラダイムを具現化し、突き詰めた演奏家にコンサートだけではなく、マスタークラスでも身近に触れることの出来る環境を作ることに努めたのです。コンクール部門の併設も上に述べた考えと密接に関わっての事です。
いささか大上段過ぎる気もしますが、これが私の偽らざる想いです。
。。。とは言え、いささか堅苦しすぎるご挨拶かも知れませんね。
この様なことを述べるのはどうでも良いことのような気もします。
皆さん、どうぞこのEEIGFの3日間を楽しんで下さい。
そこから始めましょう!
招聘したゲストは本当に素晴らしい豊かな音楽を奏でる真の芸術家達です。私も皆さんと一緒にこの3日間を存分に楽しみたいと思います。
2011年1月21日(金) 樋浦 靖晃